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宇宙プラズマと粒子加速

 宇宙空間の全質量の99%が、電子と原子核が分離した、希薄で高温の「プラズマ」で満たされています。図1の左側が空気の模式図、右側がプラズマの模式図で、+が原子核−が電子を表しています。宇宙空間を満たすプラズマは非常に希薄で、それは人間が地上で作りうる最も真空に近い空気よりも希薄です。そのため、粒子同士が衝突しません。ここで、あるメカニズムで非常に加速された粒子があったとしましょう。空気の中では、そのように加速された粒子があったとしても、他の粒子とすぐに衝突してしまい、他の粒子と同じくらいの速度まで減速されてしまいます。しかし、宇宙プラズマ中では、他の粒子との衝突がないために、減速されずにどこまでも進みます。さらに、その粒子に加速メカニズムが働けば、どんどん加速されていきます。このように、宇宙プラズマ中では、少数の粒子のみが非常に加速されることがあるのです。例えば、光の速さぐらいまで加速された超高エネルギー粒子が、「宇宙線」(図2)となったり、地磁気嵐によって加速された電子が地球に降り込み、空気との衝突により発光して「オーロラ」(図3)を作ったりします。

        

図1:空気()とプラズマ()の模式図   図2:超新星爆発による衝撃波と宇宙線の模式図

また、ときどき起こる太陽表面爆発現象(太陽フレア:図4)により、粒子が加速されエネルギーを得ることにより放射線が生成されることがあります。この放射線が人工衛星に衝突することにより、人工衛星が損傷する事があります。また、宇宙飛行士が被爆し健康に影響があるとも言われています。宇宙の放射線は、将来、人類が宇宙へ進出する際に、避けては通れない問題です。「宇宙環境」を予報する太陽地球環境情報サービス(http://hirweb.nict.go.jp/index-j.html)が通信総合研究所により行われています。

 

図3:地上で撮影されたオーロラ        図4:紫外線で撮影された太陽。右側のループ状の物がフレアで放出されたプラズマ。

 

磁場と粒子の相互作用

宇宙空間の粒子は、電子と原子核に分かれているため、電荷を帯びています。宇宙空間には磁場(磁石の力)が存在しており、速度の遅い、低エネルギーの粒子は磁場にとらえられてしまいます。また逆に、磁場はそれらの粒子によって運ばれます(図5)。宇宙では、粒子同士は衝突しませんが、磁場を仲介して粒子同士が結びつき、集団的に振る舞います。宇宙プラズマはこのようにして集団的振る舞いを見せます。ところが、加速された高エネルギー粒子は、磁場に捕らわれることなく、集団とは関係なく動くことが出来ます。宇宙プラズマは、集団的に秩序だって動く粒子(熱的粒子)と集団に従わず、勝手に動く粒子(非熱的粒子)が混在しています。粒子加速のメカニズムはたくさんあります。その多くは、大多数の低エネルギーの熱的粒子が磁場を維持し、その磁場をごく少数の非熱的粒子が“うまく”使い、エネルギーを獲得していく、という型をしています。「フェルミ加速」を例にとってみましょう。

図5:粒子と磁場の関係の模式図    図6:フェルミ加速の模式図

 

 衝撃波が存在する場合のフェルミ加速を考えましょう。衝撃波の上流()では、熱的粒子と磁場は速い速度で下流()へ向かい、下流ではゆっくりと流れます(図6)。非熱的粒子は、そのような集団の動きを無視して動くことが出来ます。非熱的粒子は速く、磁場に反射されながら動きます。上流では向かってくる磁場で反射するため、加速しますが、下流では遠ざかっていく磁場で反射するため、減速します。ところが、上流は速いため、大きく加速されるのに対して、下流は遅いため、さほど減速されません。この差によって、非熱的粒子はどんどん加速されていくのです。

 

私の研究:重たいイオンの選択的加速の新たなメカニズム

 宇宙プラズマには、解明されていない粒子加速が多く存在します。重たいイオン(原子核)だけが加速され、軽いイオンが加速されない現象が様々なところで観測されているのですが、そのメカニズムはよく分かっていません。そこで私は、このような重たいイオンの選択的加速のメカニズムを理論的に探りました。その結果、新たな加速メカニズムを発見し、Mizuta and Hoshino, Geophysical Research Letters, 2001 (link)により報告しました。修士論文では、この理論をさらに発展させ、その結果をJournalに投稿準備中です。今後は、その理論で観測がどの程度説明できるかを議論していきたいです。


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